山田祥平のRe:config.sys
通信事業者が普通の通信プランを提供しなくなる
2025年5月3日 06:15

通信事業者はデータの土管屋と言われた時代も今は昔。各社の事業領域は通信サービス以外のさまざまな事業をカバーするようになっている。スマートライフスタイルなどと称する事業の中に通信サービスは隠蔽されていくのだろうか。
通信あってのスマートライフスタイル
自分自身が著述業としての守備範囲を尋ねられた時に、PC、ガジェット全般とか、ネットワーク全般、モバイル全般などというのはおこがましいしと思っているし、その範囲全部をカバーしているというのも無理がある。
というか、うさんくさいと思われるかもしれないという危惧から、ここのところは「スマートライフ」をテーマにいろいろと勉強していますというような言い方をするようになった。スマートは実に便利な形容詞だ。デジタルやAIをも含有する。まあ、1982年の糸井重里による「おいしい生活」に匹敵する。
そして先週、ドコモが新しい料金プランを発表した。ドコモに限らず、通信事業各社ともに昨今は事業としてスマートライフスタイルの領域をカバーするようになってきているが、今回の発表はちょっと驚いた。普通の人が普通に選ぶであろう普通のプランがなくなってしまったのだ。
たとえば、無制限のデータ通信ができるドコモのプランは「eximo」だった。1GB、3GB、無制限の段階制のプランだ。それこそ今のスマートライフスタイルの領域で、毎月のデータ通信量を3GBに抑えるのは大変なので、実質的には、これがデータ通信無制限の定番プランでもあった。7,315円/月だ。
このプランは、今回の新プランの登場によって新規受付を終了する。なくなるのはeximoだけではない。必要な分だけ使えるとして3GB、6GB、9GBを段階的に提供するirumoもなくなる。このプランは9GBで3,377円だった。
これらのプランを統合するかたちになる後継プランは、まさにドコモのスマートライフスタイル全部入りプランとして君臨する「ドコモMAX」とirumoに代わる「ドコモmini」だ。それぞれ8,448円/月と3,850円/月が設定されている。
価格だけを見ると、ドコモMAXはeximoよりも1,133円の値上げ、ドコモminiは1GB分補強されたとはいえ473円の値上げとなる。
ドコモの新料金プランを解析
ドコモMAXには、
- 国際ローミングが30GBまで無料
- DAZN for docomoが見放題
- Amazon Primeが最大6カ月無料(3,600円相当)、以降も120dポイント還元
という3つの特典が提供される。また、長期利用割が提供され、ドコモのご利用継続期間が20年以上なら220円/月、10年以上なら110円/月が割り引かれる。
また、ドコモminiの特典は、
- Amazon Primeが最大3カ月無料(1,800円相当)、以降も120dポイント還元。
となっている。
驚いたことに、特典内容のうち、通信に関連しているのは、ドコモMAXの国際ローミングが30GBまで無料というものだけだ。この特典は、ドコモのオンライン専用プランahamoで好評だったものだ。
個人的にはこれまで7,315円/月でeximoを契約していた。これにはspモード利用料(ISP代)330円が含まれる。さらに、
- かけ放題オプション 定額料 1,870円
- 留守番電話サービス利用料 330円
- ユニバーサルサービス料 2円
- 電話リレーサービス料 1円
などを加算し、通信料金として9,518円だが、「みんなドコモ割」が550円分あったので、8,968円が実質的な支払い額だった。
これを新プランのドコモMAXに移行すると総合計は9,221円になる。20年以上の長期利用割で220円割引が新規に受けられるようになり、「みんなドコモ割」が以前より増額されて合計1,210円の割引が適用される。これまでとの差額は253円の値上げだ。
ただ実質的な割引きとしてAmazon Primeの月額会費充当が別にある。Amazon Primeは、年間プランとして5,900円/年を支払っているが、それが600円/月の月額会員に置き換わって半年間3,600円相当、以降も120dポイント/月が提供されるので、支払い額のトータルは当面ちょっと安上がりになる。
これらに加えてdカードで支払った時の割引きや、ドコモ光セット割、ドコモでんきセット割などの割引き制度を利用すると、さらに安くすることもできる。
いらないサブスクの抱き合わせに憤りを感じるユーザーもいるだろう。個人的にはDAZNよりも、すでに毎月のレギュラー出費であるサブスクのU-NEXTやNetflixなどが無料になればもっとよかったのだが、どこよりもサブスク料金が高いDAZNが含まれるのを歓迎するユーザーも多いに違いない。本当のことを言えば、DAZNがいらないユーザーは、それを申告することで割引きがあってもよさそうだが、そこはそこ、大人の事情が許さないのだろう。
そんなわけで、今回のドコモの新プランは、見事にスマートライフスタイルの領域でのコンテンツやサービスの付加価値拡充だ。通信についてはこれ以上足せない、これ以上ひけないという背景が感じられる。ahamoをベースにして、ほかは取捨選択自由というのがよかったとは思うが、それではインパクトが弱い。
新料金プランの解析は複雑だ。税込と税別きがごっちゃで、すべての割引きサービス適用後の金額が一人歩きしている印象もある。プランの基本料金にはドコモの通信でインターネットを使うためのSPモード利用料が含まれるのか含まれないのか、サイトの説明とマイドコモの料金内訳では体裁が異なる点もやっかいで計算にとまどったりもした。このあたりは是正すべきだろう。
土管とコンテンツ
実際には、オンライン専用プランのahamoが通信費のみの価格体系となっているものの、通信事業者の一般向けタリフから、通信だけのものがなくなるという現実にはちょっと驚かされた。
今後、このプランの価格が改定されるとしても、全体の価格がシフトするだけとなるだろうから、改定の原因が通信費なのかコンテンツ費用なのかがよく分からなくもなる。
コンテンツサービスを必要としないユーザーも、その費用を負担して、全体のバランスをキープするようないびつな状況ができあがるような印象ももった。こうした動きを歓迎していいものかどうか。
国際ローミングが30GBまで無料というので、今まで海外に行くときだけahamoを契約していたりしたので、それをしなくてよくなるのはうれしいが、今回ばかりはちょっと複雑な心境だ。