笠原一輝のユビキタス情報局
廉価版Surfaceが登場。Windows 10 EOSに合わせ、Armに乗り換えのチャンス?
2025年5月7日 11:57
Microsoftは5月6日(米国時間)に報道発表を行ない、Copilot+ PCに対応したSurfaceの廉価版となる13インチの「Surface Laptop」(以下Surface Laptop 13インチ)、「Surface Pro, 12インチ」(以下Surface Pro 12インチと表記)の2製品を発表した。
最大の特徴は、Qualcommプロセッサの廉価版となるSnapdragon X Plus(8コア)を搭載していることで、価格がそれぞれ899ドル、799ドルからと、従来のCopilot+ PCに比べると安く設定されている。こうした低価格な製品を投入することで、Copilot+ PC低価格帯に広げていく狙いがある。
また、同時にCopilot+ PCのNPUを利用したAI処理の拡張を行なう計画で、さらには従来のWindowsアプリケーションのArmアーキテクチャへの対応を進める。つまり、今年(2025年)10月に予定されているWindows 10のEOSに向けて、Arm版Windowsを搭載したデバイスの魅力を上げようとしている。
従来の廉価版と比較してディスプレイサイズと解像度が上がっている
今回発表された2製品は、ディスプレイのサイズがそれぞれ13型、12型となり、上位モデルの「Surface Laptop 13.8インチ」の13.8型、「Surface Pro(11th Edition)」の13型に比べてやや小型化している。そしてプロセッサには、従来の10コアや12コアに代わり、ミドルレンジに相当するSnapdragon X Plus(8コア)を採用していることが大きな違いになる。
最下位モデルの価格は、「Surface Laptop 13.8インチ」および「Surface Pro(11th Edition)」がともに999ドルであるのに対して、Surface Laptop 13インチは899ドル、Surface Pro 12インチは799ドル(いずれも価格は税別)であることが大きな違いとなる。従来Copilot+ PCに準拠したノートPCはやや高価というイメージがあったが、それを若干ではあるが引き下げた価格帯の製品ということになる。
この2製品は、「Surface Laptop Go 3」、「Surface Go」という廉価版ポジションを引き継ぐ製品でもある。ただし、Surface Laptop 13インチで言うと、Surface Laptop Go 3の価格帯である799ドルからは100ドル上乗せされており、若干のプライスレンジが上がっている。
Surface Laptop 13インチ | Surface Pro 12インチ | |
---|---|---|
形状 | クラムシェル型 | 脱着式2in1 |
プロセッサ | Snapdragon X Plus(8コア) | Snapdragon X Plus(8コア) |
メモリ | 16GB(LPDDR5x) | 16GB(LPDDR5x) |
ストレージ | 256GB/512GB(UFS) | 256GB/512GB(UFS) |
ディスプレイ | 13型(1,920×1,280ドット/60Hz/400cd/平方m/10点マルチタッチ) | 12型(2,196×1,464ドット/60Hz/400cd/平方m/10点マルチタッチ) |
カメラ | フルHD | フルHD(前面)/1,000万画素(背面) |
生体認証 | 指紋認証 | 顔認証 |
Wi-Fi/BTモジュール | Wi-Fi 7/Bluetooth 5.4 | Wi-Fi 7/Bluetooth 5.4 |
ポート | USB 3.2 Type-C 2基/USB 3.2/3.5mmオーディオ | USB 3.2 Type-C 2基 |
バッテリ駆動時間 | 23時間(ビデオ)/16時間(Web) | 16時間(ビデオ)/12時間(Web) |
サイズ | 285.65×214.14×15.6mm | 274×190×7.8mm(本体のみ) |
重量 | 1.22kg | 686g(本体のみ)、340g(キーボード) |
カラバリ | オーシャン、バイオレット、プラチナ | オーシャン、バイオレット、スレート |
OS | Windows 11 | Windows 11 |
その最大の要因はディスプレイの解像度が引き上げられていることだ。Surface Laptop Go 3は1,536×1,024ドットというディスプレイで、HD(1,280×720ドット)よりは高解像度だが、フルHD(1,920×1,080ドット)には満たないという、現代のノートPCとしてはやや解像度が低くなってしまっている。
それに対して、Surface Laptop 13インチは1,920×1,280ドットと、フルHDを上回る3:2のアスペクト比の解像度になっており、クラムシェル型ノートPCのスタンダード超え十分実用的になった。
Surface Pro 12インチの方は、Surface Go 3/4と比較すると、ディスプレイのサイズと解像度が大きくなっている。Surface Go 4では10.5型の1,920×1,280ドットのパネルが採用されていたが、Surface Pro 12インチは12型で2,196×1,464ドットの解像度に強化されている。
また、従来のSurface Goの一般消費者向けモデルは、メモリもストレージも貧弱な構成(メモリ4GB/ストレージ64GB)になっていたが、今回は、メモリが16GB、ストレージは256GBないしは、512GBとWindowsデバイスとして普通に使えるスペックになった。
このため、価格は300ドルほど上がっている。ディスプレイが強化され、メモリやストレージが十分Windowsが使える構成になっていると考えると、この点はトレードオフとなる。
なお、ディスプレイサイズが10.5型から12型となっているため、従来のSurface Go用のキーボードはもちろん使えないし、上位モデルとなる13型ディスプレイのSurface Pro(11th Edition)用のキーボードも使えない。このため、全く新しいオプションとして「Surface Pro 12-inch Keyboard」が用意されている。
Surface Pro 12-inch KeyboardはSurface Pro(11th Edition)用キーボードには用意されているペンを収納/充電するスペースは用意されていないキーボード一択で、同じく上位モデルでは用意されているBluetoothによるワイヤレス接続バージョンも用意されていない。
ただ、Surface Pro 12インチでは本体の裏側にSurface Slim ペン(第2世代、オプション)をマグネットで吸着できるスペースが用意されており、同時に充電することが可能になっている。個人的にはそれは大変便利だと思うので、Surface Pro(11th Edition)のような上位モデルでも実現してほしいところだ。
なお、両製品ともに5月20日から販売される計画だが、7月22日には「Surface for Business」と呼ばれる一般法人向け版の販売も開始される計画だ。
Snapdragon Xシリーズの中位モデル「Snapdragon X Plus(8コア)」を採用
今回もMicrosoftはSurface Laptop 13インチ、Surface Pro 12インチのいずれの製品にもArmアーキテクチャのSoCとなるQualcomm Snapdragon Xシリーズを採用している。昨年(2024年)発表された上位モデルに引き続いて、一般消費者向けにはArm版のみが発表されたことになる。
このことは、引き続きMicrosoftのSoC戦略として「Armアーキテクチャ推し」が続いていることを示している。そのあたりの事情に関しては以前の記事が詳しいのでそちらをご参照いただきたい。
上位モデルのどちらも、Snapdragon XシリーズのうちSnapdragon X EliteというCPUがフルスペックの12コアのOryon CPUになっているSKUが採用されている(具体的にはSnapdragon X Elite X1E80100が採用されている)。それに対して、今回発表された2製品にはSnapdragon X Plus(8コア)と呼ばれる、CPUコアを8コアに削ることで、低価格を実現したSKUが採用されている。
ブランド | パーツナンバー | CPUコア | キャッシュ | マルチコア時最大クロック | ブースト時最大 | GPU性能 | NPU性能 | メモリ(最大構成) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Snapdragon X Elite | X1E-00-1DE | 12 | 42MB | 3.8GHz | 4.3GHz(デュアルコア) | 4.6TFLOPS | 45TOPS | LPDDR5x-8488 |
Snapdragon X Elite | X1E-84-100 | 12 | 42MB | 3.8GHz | 4.2GHz(デュアルコア) | 4.6TFLOPS | 45TOPS | LPDDR5x-8488 |
Snapdragon X Elite | X1E-80-100 | 12 | 42MB | 3.4GHz | 4GHz(デュアルコア) | 3.8TFLOPS | 45TOPS | LPDDR5x-8488 |
Snapdragon X Elite | X1E-78-100 | 12 | 42MB | 3.4GHz | - | 3.8TFLOPS | 45TOPS | LPDDR5x-8488 |
Snapdragon X Plus 10-core | X1P-66-100 | 10 | 42MB | 3.4GHz | 4GHz(シングルコア) | 3.8TFLOPS | 45TOPS | LPDDR5x-8488 |
Snapdragon X Plus 10-core | X1P-64-100 | 10 | 42MB | 3.4GHz | - | 3.8TFLOPS | 45TOPS | LPDDR5x-8488 |
Snapdragon X Plus 8-core | X1P-46-100 | 8 | 30MB | 3.4GHz | 4GHz(シングルコア) | 2.1TFLOPS | 45TOPS | LPDDR5x-8488 |
Snapdragon X Plus 8-core | X1P-42-100 | 8 | 30MB | 3.2GHz | 3.4GHz(シングルコア) | 1.7TFLOPS | 45TOPS | LPDDR5x-8488 |
Snapdragon X | X1-26-100 | 8 | 30MB | 3GHz | - | 1.7TFLOPS | 45TOPS | LPDDR5x-8488 |
記事執筆時点では、Snapdragon X Plus(8コア)の2つのSKU(X1P-46-100、X1P-42-100)のうちどちらのSKUが採用されているかは不明だが、いずれにせよ8つのOryon CPU、45TOPSのNPUを搭載していることは共通で、違いはCPUの周波数とGPUの処理能力になる。基本的には大きな差がなく、CPUのわずかな性能差と、GPUのピーク性能の違い程度になる。
メモリは16GBのモデルのみで、4GBや8GBといったWindowsを使うには十分ではないメモリ容量のモデルがなくなっているのは良いニュースだ。
ストレージは256GBないしは512GBのUFSで、本来はスマートフォンやタブレットなどで選択されるストレージになる。一般的なノートPCで採用されているNVMe SSDに比べると消費電力が低いのはメリットだが、読み書きの速度は落ちることになる。このあたりは、価格とのトレードオフで、性能を求めるなら上位版のSurface LaptopやSurface Proを選択した方がいいだろう。
Copilot+ PCも1年たち本格的な普及へ、設定にAIエージェント
Microsoftは昨年にCopilot+ PCを発表した。Copilot+ PCは、40TOPS以上の性能を持つNPUを備えたPCというのが大まかな定義で、当初はQualcommのSnapdragon Xシリーズのみがそれを満たし、その後AMDのRyzen AIシリーズ(Ryzen AI 300、Ryzen AI Maxなど)がそれに加わり、9月にIntelがCore Ultra 200V(Lunar Lake)を発表して投入したことで3社のSoCが出揃った。
こうした新しいハードウェアが登場した時に起こりがちなのが、「鶏と卵問題」と呼ばれる堂々巡りだ。卵になるハードウェアがないから、鶏になるソフトウェアが出てこない。鶏になるソフトウェアがないから、卵になる新しいハードウェアが普及しないわけだ。堂々巡りを防ぐためには、“誰か”が人工的に鶏や卵を生み出し、好循環を作り出していくしかない。
そこで、MicrosoftはNPUの普及を加速するために、「Copilot+ PC」の取り組みを発表し、40TOPSのNPUを採用した自社製品のSurfaceやOEMメーカーのノートPCに「Copilot+ PC」のブランドを付加する取り組みを行なってきた。
まずMicrosoftがRecallなど、NPUを活用するソフトウェアを提供し、OEMメーカーにNPUを搭載したハードウェアの採用を促す。NPUを搭載したハードウェアが増えてくると、今度はサードパーティのソフトウェアベンダー(ISV)もNPUを利用するソフトウェアを開発して市場に投入していく……そうした好循環を生み出すのがCopilot+ PCプログラムの狙いになる。
その目玉だったRecallは、当初プライバシーへの懸念からセキュリティ周りの設計をやり直すなどして、半年後にプレビューとしてWindows Insiderに提供が開始された。ようやく先日に、Windows 11 24H2にもプレビューパッチが提供されることになるなど、本格的な展開が始まっている。
Microsoftは今後もそうしたNPUを活用したAI機能の拡張を行なっていく計画で、近日にはWindowsの「設定」に、AIエージェントの機能を付加することを明らかにしている。たとえば「PCを音声で操作できるようにしてほしい」や「マウスポインターを超大きくして」など、これまでの検索機能では実現できなかったような自然な指示をすると、WindowsがNPUを利用してユーザーが何をしたいのか理解して、設定の変更を自動で行なうことが可能になる。ここまで来ると近い将来は、音声でWindowsに指示を出すだけで壁紙を変えたりなどより自然な処理が実現可能になっていく可能性が高い。
このほかにも、「Click to Do」、「写真」、「ペイント」、Snipping Tool、スタートメニューにPhone Link機能の統合などの機能拡張も発表されている。既にWindowsのアプリストア「Microsoft Store」には「AI Hub」というタブが用意されており、Copilot+ PCに対応したPCではNPUを利用したAIアプリケーションが紹介されていたり、そうではないPCでは一般的なAIのアプリケーションが紹介されるようになっている。
今年10月のWindows 10 EOSに向けて新しい選択肢
Microsoftにとってこの1年での大きな進化は、ISVのNPU活用が進んだことだ。今回の廉価版Copilot+ PC対応Surfaceの発表にあわせて、Music.AIの「Moises Live」、Topaz Labsの「Gigapixel AI」でもNPUが利用可能になったことが明らかにされている。
ほかにも、「Capcut」、「DJay Pro」、「Davinci Resolve」、「Camo」、「Cephable」、「Liquidtext」などでNPUを活用した処理が可能になっている。
また、Adobe Premiere Proのベータ版では、IntelのNPUを活用したAudio Category Taggerができるようになっている。このAudio Category Taggerはオーディオを解析し、オーディオのカテゴリ(たとえば音楽なのか、音声なのか、騒音なのか、などなど)にタグを自動でつけて編集者が編集しやすいように分類する機能だ。これまではGPUで行なわれていたが、最新のベータ版ではそれを、NPUを利用してできるようになっている。
Arm版への対応が遅れていたAdobe Creative Cloudだが、この1年でArm対応が進み、Armネイティブ対応が「Photoshop」、「Lightroom」、「Fresco」の3本となったほか、x86版の「Acrobat」、x64版の「Lightroom CC」、「Premiere Pro」(およびMedia Encoder)、そしてベータのx64版の「Illustrator」と「InDesgin」もバイナリ変換で動作するようになり、主要アプリのほとんどがArm上で利用できるようになった。
非対応なのは「After Effects」ぐらいになってきており、After Effectsをヘビーに使うユーザーでなければ、Arm版WindowsでもCreative Cloudを使えるところまできている。あとは、現在x64版として提供しているソフトウェアがArmネイティブ版の提供になれば、x64版と遜色なく使えるようになるだろう(現時点ではPremiere Proでハードウェアエンコーダが使えないなどの制限がある)。
このように、NPU対応からしても、Armアーキテクチャへの対応からしても大きく進んだ1年と言って良いだろう。以前も言ったように、ソフトウェアの互換性問題は100%解決することは絶対にないが、ある閾値を超えて多くの人にとって問題がなくなる時が必ずくる。
筆者個人としては日本語IMEである「ATOK」の対応を待っている状況だが、そうしたそれぞれのユーザーにとってのキラーアプリ対応が完了する時期は、そう遠くない時期だと感じている。
もちろん、自分が必要としているアプリのすべてのArm版Windowsへの対応が済んでいることは大前提だが、Windows 10のEOSに向けて、今回の廉価版Surfaceも含め、乗り換え先としてArm版Windowsを搭載したデバイスを検討に加える時期に来ているのではないだろうか。