Ubuntu日和

【第74回】7万円台が話題の7型ゲーミングPC「TENKU LUNA」に早速Ubuntuを入れてみたぞ!

 「TENKU LUNA」は天空が5月30日に発売した、日本ブランド初の7型ポータブルゲーミングPCだ。本サイトでも紹介されているが、Ryzen 7 7840Uに32GBのメモリを搭載しながらも、非常にリーズナブルな価格設定で注目を集めた。その人気の高さから、既に完売となっている。

 筆者はゲームが大好きであるが、実はポータブル機にはそれほど興味がなかった。理由は単純で、筆者のプレイスタイル的に、外出先でのプレイや、布団に寝ながらのプレイなどをしないためだ。もちろんNintendo Switchも、リビングで据え置きモードで絶賛稼働中である。

 とはいえ、ここまでコスパのよいマシンが登場すると、さすがに興味が沸いてくる。そんな折、なんと発売前の本機を借りることができた。そこで今回はポータブルゲーミングPCにUbuntuを入れ、ゲームは快適にプレイできるのか試してみたいと思う。こうした一般的なPCとは少し異なるマシンで、果たしてUbuntuは動くのだろうか?

お借りした一式。電源アダプタは65W出力のもの。計測してみたところ、20Vで給電しているようだ

 なお、マニュアルにも記載されているが、本機はユーザーが独自にOSをインストールすることは(Windowsであっても)サポート対象外となっている。本記事の内容を試す場合はくれぐれも自己責任でお願いしたい。プリインストールOSのリカバリ領域のバックアップも忘れないように。

いつもならば無慈悲にWindowsを消す所だが、借り物なのでClonezillaでまるごとバックアップを取った

Ubuntu 25.04のインストール

 今回インストールするUbuntuは、現時点で最新の25.04を選択した。普段であれば長期サポート版の24.04を選択するところなのだが、新発売のハードということもあり、少しでも新しいOSの方がよいだろうという判断だ。ダウンロードサイトから「25.04」のISOイメージをダウンロードしてUSBメモリに書き込んでおこう。本機のUSBコネクタは、Type-Cが2つだ。筆者が試したところ、手持ちのUSBハブ経由ではブートできなかったため、Type-CのUSBメモリを用意した方がよいだろう。

 本機の電源を入れると、TENKUのロゴが表示される。このタイミングでキーボードのF12キーを連打すると、ブートメディアの選択や、UEFI画面へ入ることができる。そのためUSBキーボードを(とインストールの際の利便性も考えると、USBハブをつけてマウスも)接続しておこう。

F12キーを連打で、ブートメディアの選択が出る

 USBメモリへの書き込み方法や、インストールの手順は(だいたい)いつも通りだ。バージョンが違うため多少の差異はあるが、こちらを参照してほしい。

 余談だが本機の仕様として、TENKUのロゴが表示されている際に隣のF11キーを押すと、プリインストールされているWindowsのリカバリモードに入るようになっている。このリカバリモードがクセモノで、確認のダイアログなどは一切出ず、問答無用で初期化作業を開始する。そのため「USBから起動してUbuntuのライブセッションを試してみようと思ったら、うっかり隣のキーを押してしまい、Windowsのデータが全部消えた」という事故が起こる可能性がある(というか筆者には起こった)。キーの押し間違いにはくれぐれも注意してほしい。

ディスプレイの設定

 Ubuntuを起動してまず最初に気づくのが、液晶がネイティブポートレートだということだ。そのため画面が90度回転されて表示されてしまう。このままでは使いにくいため、まず最初にGNOMEの設定で、画面を回転させておこう。右上のシステムメニューから歯車のアイコンをクリックして設定を開き、「ディスプレイ」を選択する。「向き」を「Portrait」→「Landscape Left」に変更すれば、正しい向きで表示されるようになる。

デフォルトではこのように、ポートレート表示されてしまう
90度回転させた状態。なお「任意倍率のスケーリング」を有効にして、125%にスケールすると、筆者的には見やすい大きさとなった

タッチスクリーン

 ポータブルゲーミングPCには、キーボードやマウスが搭載されていない。かといってこれらのデバイスをぶら下げっぱなしだと、ポータブルというメリットがスポイルされてしまう。そのためマウスは画面のタッチで、キーボードはスクリーンキーボードを利用するのが基本となる。言ってみればPCよりも、スマホやタブレットに近いわけだ。そしてその肝心なタッチスクリーンだが、特に問題なく動作した。

スクリーンキーボード

 Ubuntuには、スクリーンキーボードが用意されている。まず設定の「アクセシビリティ」を開き、「常にアクセシビリティメニューを表示する」をオンにしておこう。これをオンにしておかないと、何らかの理由でスクリーンキーボードをオフにした際に、トップバーからアクセシビリティメニューが消えてしまい、再度オンにするのに手間がかかるためだ。

アクセシビリティメニューは常時表示しておいた方がよい

 続いて「Typing」を開き、「スクリーンキーボード」をオンにする。

設定からスクリーンキーボードを有効にする

 スクリーンキーボードは、テキスト入力エリアをダブルタップするか、タッチスクリーンを画面下から上に向かってスワイプすることで呼び出せるので覚えておこう。これはログイン画面でも同じだ。また初回ログインからスクリーンキーボードの動作確認が完了するまでは、USBキーボードを繋いだままにしておいた方がいいだろう。

ログイン画面でもアクセシビリティメニューからスクリーンキーボードをオンにできる
スクリーンキーボードでパスワードを入力してログインする

Wi-Fi

 今時のコンピュータは、ネットワークにつながなければ何もできない。そのためNIC(ネットワークインターフェイスカード)が動くかどうかは、最も気になる所だろう。

 特に大昔のLinuxを知っている人からすれば、Wi-Fiのドライバが鬼門であったトラウマもあるのではないだろうか。結論から言えば何の問題もなく動作する。安心してほしい。

搭載しているチップがIntel AX210であるため、Wi-Fiの動作に問題はない

Bluetooth

 ポータブルゲーミングPCならではの使い方と言えば、やはり外出先でのゲームプレイだろう。そうなると当然、Bluetoothヘッドフォンの利用はマストとなる。Wi-Fiと同じく、モジュールがAX210であるため、こちらも動作する。

筆者はソニーのWH-1000XM4で動作を確認したが、本体のボリュームボタンも含めてまったく問題なかった

各種ボタン

 本機には電源ボタンやボリュームボタンのほかに、「TDP切り替えボタン」、「ホームボタン」、「スクリーンキーボードボタン」、「クイックボタン」が用意されている。

 TDP切り替えボタンは、いわば全力運転と省エネ運転を切り替えるためのボタンだ。筆者の計測では、本機はピーク時で20V/2.5A(約50W)程度の電力を消費していた。だがTDP切り替えボタンを押すと、CPUクロックが2.8GHz程度まで低下するものの、20V/1.5A(約30W)程度まで消費電力を下げることができた。

 ポータブル機にとってバッテリは限りある資源だ。パワーをセーブしても問題ない場合は、省エネ運転を心がけるのもよい考えだろう。

 ホームボタンは、押すことで全ウィンドウを最小化してデスクトップを表示する、ショートカットで言うと「Super+D」キーと同じ挙動をする。そして再度押せば、アプリケーションに戻れる。本機でゲームは基本的にフルスクリーンで動かすであろうから、一時的にデスクトップに戻りたい際に便利だ。

 スクリーンキーボードボタンとクイックボタンは、デフォルトでは動作しない。しかしスクリーンキーボードボタンは、ACPIのWMIインターフェイスを介して機能を呼び出すタイプのボタンだ。そのためacpidパッケージをインストールし、押下イベントをフックすることで、任意の処理は実装できそうだ。

 筆者はこの仕組みを利用して、スクリーンキーボードのオン/オフを実装しようと考えた。だがacpidから起動する処理はroot権限で動作するため、一般ユーザーが起動しているGUIセッションに直接干渉するのが少し難しい。そしてUbuntuのスクリーンキーボードは画面スワイプでいつでも呼び出せるため、わざわざボタンに処理を実装する必要もないのではないかと思い、今回は動かないまま放置することとした。腕に覚えのある方は、独自処理の実装に挑戦してみても面白いかもしれない。スクリーンショット機能などを割り当てられると、本機の性質的に面白いと思うのだが……。

 クイックボタンについては、xev、evtest、acpi_listenといったコマンドにも反応がなく、どう動かしてよいか分からないまま時間切れとなってしまった。ここは少し悔しいところだ。

microSDスロット

 本機にはmicroSDカード用のスロットも装備されている。本機の内蔵SSDは1TBないし2TBあるため、わざわざ低速なmicroSDカードを使うことはないかもしれないが、とりあえず問題なく動作したことをお伝えしておこう。

筆者は256GBのmicroSDXCを使用してみたが、問題なくマウントできた

Steamをインストールしてゲームマシンにしてみよう

 普通にUbuntuマシンとして使えそうなことは分かったが、LUNAはゲーミングPC。やはりゲームを動かしてナンボだろう。今時のタイトルが快適にプレイできるのだろうか? Steamをインストールして実際にゲームをプレイし、FPSを計測してみよう。

Steamのインストールと設定

 Steamのインストールと設定については、第3回を参照してほしい。3年前の記事ではあるが、基本的な手順は今も同じである。以下のコマンドでsteam-installerパッケージをインストールする。

$ sudo apt -U -y install steam-installer

 あとはアクティビティ画面からSteamのインストーラを検索して起動すればいい。自動的にさまざまなデータのダウンロードや設定が行なわれ、しばらくすればSteamクライアントが起動する。インターフェイスの日本語化や、Steam Playの有効化も行なっておこう。なお現在のSteamクライアントでは「互換性」に設定項目の名前が変わっているため、そこだけ注意してほしい。

互換性の設定

MangoHudのインストール

 今回はFPSを計測するため、MangoHudを使用した。以下のコマンドでインストールできる。

$ sudo apt -U -y install mangohud

 続いて以下のコマンドで、設定ファイルとログを出力するディレクトリを作成した上で、サンプルの設定ファイルをコピーしよう。

$ mkdir -p ~/.config/MangoHud
$ mkdir ~/mangologs
$ zcat  /usr/share/doc/mangohud/MangoHud.conf.example.gz > ~/.config/MangoHud/MangoHud.conf

 そして、設定ファイルをテキストエディタで以下のように書き換えよう。「output_folder」行のコメントアウトを解除し、先ほど作成したmangologsディレクトリを指定する。ここに計測したログが出力されるというわけだ。

# output_folder=/home/<USERNAME>/mangologs

output_folder=/home/自分のユーザー名/mangologs

 あとはSteamクライアントから計測したいゲームのプロパティを開き、「起動オプション」を以下のように設定しよう。

mangohud %command%
起動オプションを設定する

 これでゲーム起動時にMangoHudも起動し、GPUやCPUの使用率、フレームレート、フレームタイムなどがオーバーレイ表示されるようになる。その状態でキーボードの左Shift+F2キーを押すと、フレームレートの記録が開始される。

ゲーム中にMangoHudのオーバーレイを表示した例

 それでは実際に計測した結果を見ていこう。なおテストには筆者のゲームライブラリの中から、それなりに負荷のかかりそうな3Dのアクションゲームをいくつか選択した。具体的なタイトルは以下の通りだ。なおどのタイトルも、解像度は1,920×1,080ドットのフルスクリーン、グラフィックス品質は最低ないし、それに準じる設定としている。

DARK SOULS REMASTERD

 「死にゲー」の代名詞であり、「ソウルライク」と呼ばれるジャンルと無数のフォロワーを誕生させた、ゲーム史に残るフロム・ソフトウェアの傑作アクションRPG、そのリマスター版だ。ゲーム開始から「不死院のデーモン」撃破までを計測した。

下位0.1% FPS下位1% FPS97パーセンタイルFPS平均FPS平均GPU負荷平均CPU負荷
2.753.863.26070.613

DARK SOULS 3

 ダークソウル三部作の完結編であり、今なおソウルシリーズの最高傑作として挙げる人も多い、フロム・ソフトウェアの傑作アクションRPGだ。ゲーム開始から「灰の審判者、グンダ」撃破までを計測した。

下位0.1% FPS下位1% FPS97パーセンタイルFPS平均FPS平均GPU負荷平均CPU負荷
22.634.764.852.289.922

SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE

 2019年におけるThe Game Awardsのゲーム・オブ・ザ・イヤー受賞作でもあり、アクションゲームの到達点とも評される、フロム・ソフトウェアの傑作アクションアドベンチャーだ。ゲーム開始から、序盤の「葦名弦一郎」のイベントまでを計測した。

下位0.1% FPS下位1% FPS97パーセンタイルFPS平均FPS平均GPU負荷平均CPU負荷
12.531.169.456.884.926.2

ELDEN RING

 ソウルシリーズの正統進化作として登場し、2022年には世界四大ゲームアワードのゲーム・オブ・ザ・イヤーを総なめにした、フロム・ソフトウェアの最高傑作だ。ゲーム開始から「関門前」の祝福に到達するまでを計測した。

下位0.1% FPS下位1% FPS97パーセンタイルFPS平均FPS平均GPU負荷平均CPU負荷
10.5246246.379.627.5

ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON

 フロム・ソフトウェアの傑作ロボットアクションゲームであるアーマード・コアシリーズ。そのナンバリング6作目にして、10年ぶりの完全新作だ。ゲーム開始から、チュートリアルミッション「密航」をクリアするまでを計測した。

下位0.1% FPS下位1% FPS97パーセンタイルFPS平均FPS平均GPU負荷平均CPU負荷
19.133.112153.68738.2

ELDEN RING NIGHTREIGN

 ELDEN RINGの戦闘システムをベースにしつつ、オンライン協力サバイバルアクションとして再構築されたスピンオフ作品。本記事を執筆している最中に(2025年5月30日)発売されたばかりの、フロム・ソフトウェアの最新作だ。オンラインマルチプレイを1ゲーム遊んで計測した。

下位0.1% FPS下位1% FPS97パーセンタイルFPS平均FPS平均GPU負荷平均CPU負荷
11.227.862.652.777.225.4

計測結果まとめ

 分かりやすいよう、平均FPSをまとめたグラフが以下のものだ。

 実際にプレイした体感としては、ELDEN RINGが少々重い。また最新作であるNIGHTREIGNは、FPSが極端に落ちるシーンもあった。だが、遊べないということはなく、筆者は実際にオンラインマルチプレイでボスまで撃破している。

 そしてそれ以外のタイトルは、ほとんどフレーム落ちを気にせず遊ぶことができた。DARK SOULS REMASTERDに至っては60FPSに張り付きである。また高速なアクションがウリのARMORED COREが、思っていた以上にサクサク動いたのは強調しておきたい。

 また参考までに、2Dなゲームや、アクションではないゲームもいくつかピックアップし、平均FPSを計測してみた。

 見ての通り、ほぼ60FPSもしくはそれ以上である。このことから、よほど重量級のゲームや、1フレームが勝敗を分けるような対戦ゲームでなければ、おおよそ問題なく遊べると考えていいだろう。

まとめ

 本機についての感想を一言で表わせば、「思った以上に普通に動いてしまった」に尽きる。この手のハードをいじる時は、どこかにハマり所があったり、思ったほどの性能が出なかったりするのが常なのだが、一部のボタンを動かすのが面倒そうという以外は大きな問題はなかった。

 肝心のゲームの動作も、ほとんどのタイトルで平均50FPS以上をキープできた。ポータブルなハードはどうしても非力で、レトロゲームや2Dゲーム専用機にするしかないだろうという偏見があったのだが、近年のAAAタイトルも、設定次第で十分遊べそうだ。

 ポータブル機に興味のない筆者であったが、これならいいかもと宗旨変えをしてしまいそうである。本機は残念ながら完売となってしまっているので、ほかで改めてチャレンジすることになるかもしれない。