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バリバリのAI機能&ハイエンドにふさわしいパフォーマンス。そんなスマホのZenfone 12 Ultra

Zenfone 12 Ultra

 ASUSのフラグシップスマートフォン「Zenfone 12 Ultra」が5月28日に発表され、予約がスタートした。ASUSはエンスージアスト向けのゲーミングスマホであるROG Phoneシリーズも手がけているが、Zenfoneはどちらかというと一般層向けとして実務性能にこだわっているシリーズだ。

 しかし、「Ultra」が付くモデルはROG Phoneのパフォーマンスを受け継いだハイエンド機でもあり、「ゲーマーではないができるだけ高い性能が欲しい」ユーザーにフィットする製品となる。先代のZenfone 11 Ultraからどのような進化を遂げたのか、早速チェックしてみたい。

 発売は5月30日で、本体価格はメモリ12GB/ストレージ256GB版が14万9,800円、メモリ16GB/ストレージ512GB版が16万9,800円。

Snapdragon 8 Eliteに、最大16GBメモリ、144Hzディスプレイ

試用機のスペック
OSAndroid 15
CPUQualcomm Snapdragon 8 Elite Mobile Platform(8コア、最大4.32GHz)
GPUAdreno
メモリ16GB(LPDDR5X)
ストレージ512GB(UFS 4.0)
ディスプレイ6.78型LTPO AMOLED 2,400×1,080ドット(最大144Hz、DCI-P3 107%)
インターフェイスUSB 3.1 Gen.2 1基、デュアルSIMスロット、ヘッドセット端子
NFCNFC Type A/B、FeliCa
通信機能5G、Wi-Fi 7、Bluetooth 5.4
アウトカメラ5,000万画素 広角、1,300万画素 超広角、3,200万画素 望遠
インカメラ3,200万画素
セキュリティ画面内指紋認証、顔認証
防水・防塵IP65/IP68
バッテリ5,500mAh
バッテリ駆動時間Wi-Fi通信時 : 約14.9時間
モバイル通信時 : 約13.1時間(5G/LTE)
連続通話時4,290分(VoLTE)
充電最大65W(Quick Charge 5.0、USB PD、Qi)
サイズ約163.8×77×8.9mm
重量約220g
価格16万9,800円

 主要なスペックを上の表にまとめたが、Zenfone 12 Ultraの特徴を順番に解説していこう。

 まず、頭脳部分には現時点でQualcommの最上位SoCであるSnapdragon 8 Elite Mobile Platformを搭載する(ただし動作周波数が最大4.47GHzのバージョンではなく、4.32GHzのバージョンとなる)。試用機はメモリ16GB、ストレージ512GBの上位モデルで、このほかにメモリ12GB、ストレージ256GBの下位モデルもラインナップしている。

Snapdragon 8 Eliteの動作周波数は約4.3GHz。メモリ最大16GB、ストレージ最大512GB

 ディスプレイは前世代の仕様をほぼ踏襲している。AMOLED(有機EL)を採用した比較的大きめの6.78型で、解像度は2,400×1,080ドット、9:20というやや縦長のアスペクト比だ。リフレッシュレートは1〜120Hzの可変とすることで省電力にも配慮しつつ、ゲームプレイ中には最大144Hzでの動作も可能にしている。

鮮やかな有機ELディスプレイ。リフレッシュレートは通常時最大120Hz
ゲームプレイ中に画面左上隅からのスワイプで起動できるユーティリティ「Game Genie」から144Hzに設定可能

 2,500cd平方/mのピーク輝度、かつDCI-P3の色空間を107%カバーするという広色域も特徴だ。ちなみにディスプレイガラスは高強度のCorning Gorilla Glass Victus 2を採用しており、ここも前世代と同じだ。

傷やひび割れに強いCorning Gorilla Glass Victus 2

eSIMおよび超高速通信のWi−Fi 7に対応

 ネットワーク周りでは、まずeSIMに対応したのがポイントとなる。物理SIMを2つまで利用でき、そこにeSIMも追加可能だ。ただし、eSIMを有効にした場合は2つ目の物理SIMが無効化されるため、同時併用できるのはいずれにしても2つまで。それでも、オンラインでの回線契約や用途に応じた柔軟なSIM切り替えなど、eSIM対応によって得られるメリットは大きい。

トレイの表裏にSIMカードを1枚ずつセットできる。ミリ波には対応しないものの、国内キャリアの5GおよびLTEの周波数帯の大部分をカバー
物理SIM×2とeSIMを利用できる。eSIMを有効化時は2つ目の物理SIMが無効になることに注意

 加えて、Wi-Fi 7に対応したのも進化点の1つ。SoCのスペック上は320MHzの帯域と4,096QAMに対応し、転送速度は最大5.8Gbpsとなっている。実際に筆者宅のWi-Fi 7環境でインターネット回線の速度をチェックしたところ、上り下りともに3.5Gbpsを記録した(バックホールおよびインターネット回線は10Gbps、PCでの有線LAN接続時は平均6〜7Gbps)。

Wi-Fi 7環境では上り下りともに3.5Gbpsを超えた

 ほか、画面内センサーによる指紋認証、Qi対応のワイヤレス充電(最大15W)、おサイフケータイ(モバイルFeliCa)、5,500mAhの大容量バッテリによる長時間稼働といったあたりもZenfone 11 Ultraを継承している。防水/防塵性能が、水没に耐えられるIP65/IP68というのも同じ。重量は約5g削減されたものの、端末サイズはほとんど変わっていない。

画面内指紋認証に対応
Qiによる最大15Wのワイヤレス充電が可能
Type-Cを装備するのはもちろんだが、イヤフォンジャック(ヘッドセット端子)もちゃんとあるのは音楽好きにもうれしい部分

 ハードウェア全体として新しくなった点をまとめると、Zenfone 11 Ultraのユーザーに求められていただろう(eSIM対応などの)改善案の反映と、時代に合わせた性能の底上げ、といったところだろうか。

文書要約などAI機能がさらに充実

 一方で、ソフトウェア、とりわけAIに関わる機能は大幅なアップデートが加わっている。前世代のZenfone 11 Ultraでも録音音声の「AI文字起こし」、音声通話を自動翻訳する「AI通話翻訳」、オリジナル壁紙を作れる「AI壁紙」といった機能は実装されていたが、そこに下記の9つのAI機能が追加された。

  • AI記事の要約
  • AIドキュメント要約
  • かこって検索
  • AI消しゴム
  • AIピンボケ補正
  • AI流し撮り
  • AIトラッキング
  • ポートレート動画
  • ドキュメントキャプチャー
一部のAI機能を利用するには、あらかじめ「AIキットの管理」から必要なデータをダウンロードし、日本語の言語パックも追加しておく

 実はこのあたりの機能は最新のROG Phone 9シリーズでも利用できるので、Zenfone 12 Ultraの専売特許というわけではない。が、AI機能の本格展開や正式リリース(いくつかの機能はまだベータ版扱い)に向けて順調に進んでいるものと思われ、今後一層の機能拡充にも期待が持てそうだ。

 それはそうと、これら9つの機能の中でPC Watch読者のみなさんに一番おすすめしたいのが「AI記事の要約」。「AIドキュメント要約」という似た名前の機能もあるが、この2つの役割は明確に異なる。「AI記事の要約」はWebブラウザなどで閲覧中のページ内容を要約するもので、「AIドキュメント要約」はダウンロードしたPDFやWord文書などを要約するものとなっている。

Webブラウザなどの共有機能から……
「AI記事の要約」に連携
数秒待てば……
記事内容が要約される

 「AI記事の要約」は、Webブラウザなどのアプリにある共有機能を通じて利用できる。PC Watchの通常の記事程度の文章量だとわずか数秒で処理し、簡潔な文章にまとめてくれる。長い特集記事を後でじっくり読むとして、とりあえずはパッと流し読みしたい、というようなときに便利だ。

 一方の「AIドキュメント要約」は、「ファイルマネージャー」アプリから文書ファイルを選択すると現れる「要約」ボタンをタップすることで、要約したテキストを表示する。同時にテキストファイルでも保存されるので、後から参照し直すために同じ操作を繰り返す必要はない。

「AIドキュメント要約」は「ファイルマネージャー」アプリから。ファイルを選択して「要約」をタップすると……
Wordファイルの中身を簡潔に文章化してくれた

 この2つはAIのオーソドックスな使い方ではあるものの、ユーザー登録などをすることなく、気軽に、しかも高速に実行できるのがうれしい点。ただし、これら要約機能などの使用量には制限があるので使い放題というわけではない。24時間内で一定の上限(おそらくトークン数)が決められており、毎朝9時にカウントがリセットされる仕組みとなっている。

要約機能は24時間内の使用量上限が決まっている。「AI文字起こし」も含まれるとしているが、標準の「音声レコーダー」アプリで文字起こししている分にはカウントされないようだ

 また、「AIドキュメント要約」ではページ数(容量)の少ないファイルや、反対に大きすぎるファイル(確認した範囲では10MB程度以上)は要約できなかったりもするので、今後はこうした制限の緩和にも期待したいところ。

カメラのAI撮影が拡充、手ぶれ補正もグレードアップ

トリプルカメラを装備

 アウトカメラはトリプルレンズとなっており、メインとなる5,000万画素の広角カメラと、超広角カメラ(1,300万画素)、および望遠カメラ(3,200万画素)を搭載している。下記に撮影サンプルを掲載したが、このカメラにもAIを活用した機能が数多く盛り込まれた。

超広角カメラ(光学0.7倍)
広角カメラ(光学1倍)
望遠カメラ(光学2倍)
望遠カメラ(光学3倍)
望遠カメラ(光学3倍)
望遠カメラ(デジタル10倍)
望遠カメラ(デジタル30倍)

 1つは「AI消しゴム」。みなさんご存じの通り、写真に映り込んだ余計なものを塗りつぶして自然な見栄えにするものだ。撮りたい風景にマッチしない人や電線などの障害物をタップで選択したり、なぞって囲んだりするだけできれいに消えてくれる。

「AI消しゴム」。電線が入り込んでいるが(左)、なぞって囲むと自動選択され(中)、きれいに消える(右)

 「AIピンボケ補正」は、撮影時に手ブレしてしまった被写体の見栄えをある程度補正する機能。「ある程度」なのでガッツリ二重に見えているようなものをくっきりとした映りにすることは難しいようだが、拡大して見たときにぼやっとしているような写真には効果的だ。通常の写真の精細度を上げる目的で使うのもアリだろう。

「AIピンボケ補正」。補正前(左)と補正後(右)

 「AI流し撮り」は、テクニックの必要な流し撮りを簡単にできるようにするもの。走行しているクルマなどを追うようにしてシャッターを切ると、クルマにピントを当てつつ、スピード感が感じられるようにそれ以外の風景をぼかす。

 本来ならシャッタースピードを遅くした上で、被写体の動きにカメラ(スマホ)を正確に追従させて撮影しなければならないが、「AI流し撮り」なら一発だ。後からスピード感(ぼかし具合)を3段階から選べるので、インパクトのある流し撮り写真が容易に得られる。

手動の流し撮り(左)と「AI流し撮り」(右)。自転車だと隙間から見える背景が流れないので、クルマを被写体にするのに向いているようだ

 「ドキュメントキャプチャー」は、数あるAI機能の中では若干地味な感じではあるものの、意外と使い勝手がいい。機能としては紙の書類などを撮影した時に台形補正するものなのだが、逆さまに撮影してもちゃんと正しい方向になるし、影が映り込んでも自動で消して、きれいなスキャン画像に仕上げてくれる。

「ドキュメントキャプチャー」。逆さまかつ影が入った状態だが(左)、正しい方向かつきれいな色合いで取り込めた(右)
特殊な撮影モード「ライトトレイル」の「トラフィック」で撮影。クルマの光跡を美しく表現する

 そして、これはAIとはあまり関係ないが、手ぶれ補正も進化している。メインの広角カメラには6軸のジンバルモジュールを搭載しており、これまで最大3度までだった光学手ぶれ補正が5度にまで拡大。静止画や動画撮影時の手ぶれを最小限に留めてくれる。手ぶれ補正オフと、中程度の補正を行なう「Adaptive」、それと最大限の補正を行なう「HyperSteady」の3パターンで動画撮影したサンプルもご覧いただきたい。

手ぶれ補正オフとオンの比較動画

大幅なパフォーマンスアップで最強クラスの地位をキープ

 続いてベンチマークアプリで端末性能もチェックしてみよう。前世代のZenfone 11 Ultraは発売当時としては最強クラスの性能を誇っていたが、今回のZenfone 12 Ultraはどうだろうか。

「AnTuTu Benchmark」の結果
「Geekbench 6」の結果

 「AnTuTu Benchmark」の結果を見ると、総合スコアが前世代比で20%近く向上している。ROG Phone 9シリーズには及ばないものの、Snapdragon 8 Eliteの高いポテンシャルをしっかり引き出している。さらに「Geekbench 6」のGPUスコアにおいては30%以上と大幅な上昇が見られる。

「3DMark」の結果

 「3DMark」はごくわずかな向上に留まったが、「原神」ではデフォルトの画質設定が「高」となり、フレームレート設定を60fpsにしたところプレイ中のfps値はほぼ完璧に上限に張り付いた。ゲーミングスマホ並みのポテンシャルを持っていると言っていいだろう。

「原神」のデフォルトの画質設定は「高」が自動選択された
フレームレートも上限に張り付いている

 なお、3Dゲームのような負荷が高めのアプリを使用しながら充電すると、端末が手で持てないほど発熱する場合がある。本気でゲームをするなら冷却機構付きのスマホゲームグリップなどを活用することを考えてもいいかもしれない。

文句なしのパフォーマンスだが、AI機能の改善が今後の鍵か

 端末のパフォーマンスは文句なし。ネットワーク周りもeSIM対応やWi-Fi 7対応で使い勝手と性能の両面で向上し、AI機能の充実度も高まってきた。

 ただ、AI機能はヘビーに使うとすぐに制限に到達する可能性があるため、先述の通りもう少し緩和してほしいと感じる。ベータ版とはいえ「AI文字起こし」はリアルタイム性が低く、(日本語における)精度もGoogle Pixelスマホのレコーダアプリほどではないこともあって実用性の面では課題が残る。

「音声レコーダー」アプリによる「AI文字起こし」。録音しながら文字起こしできるがリアルタイム性は低い。ほかの文字起こしアプリ・サービスと比べて精度が高いとは感じられなかった

 こうしたソフトウェア部分を磨いていくことが、単なるハードウェアの性能競争ではなくなってきたスマホの差別化につながる、とメーカーとしても考えているはず。15~17万円という価格面からユーザーの期待値が高くなってしまう端末だからこそ、発売後の継続的な機能改善をしていけるかどうかが勝負所になりそうな予感だ。