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Windowsだからカンタン!余っているPCを「ファイルサーバー」にする方法

 PCを買い換えたり、買い増したりした際に余ったPCをどうするかは悩みどころだ。Windows 11にアップデートできないような古いPCなら躊躇なく捨てられそうだが、今まで普通に使ってきたPCをスッキリ捨てられるかと言うと、心情的になかなか難しい。

 そこで今回は、こうした買い換えで余ったPCを「ファイルサーバー」として使う方法を紹介しよう。家庭内にファイルサーバーがあれば、家族や複数のデジタルデバイスでファイルを共有し、便利に活用できるようになる。

複数のPCで簡単にファイルを共有できる

 ファイルサーバーとは、ネットワーク経由でアクセスしてファイルのやり取りが行なえるPCのことだ。一般的なPCで外付けHDDやSSDを利用する場合、PCのUSBポートを通じてそれらのストレージを接続し、ファイルのやり取りを行なう。しかしファイルサーバーでは、PCが認識しているストレージに「共有フォルダー」を作ることで、ネットワーク経由で接続したPCからそのフォルダー内のファイルを「共有」できるようになる。

 外付けHDDやSSDに保存されたファイルを別のPCで利用する場合、もとのPCから外して別のPCに接続し直す必要があるが、ファイルサーバーではそうした作業を行なうことなく、共有フォルダーを通じてファイルのやり取りが行なえる。家族で複数台のPCを使っていたり、複数の部屋でPCやデジタルデバイスを利用している人なら、その利便性は理解できると思う。またこうしたファイルの共有はPCだけでなく、スマホやタブレットからでも可能だ。

外付けHDDやSSDでは原則的に、接続したPCでしかファイルを読み書きできない

 導入のハードルも低い。ファイルサーバーで簡単なファイル共有機能を使うだけなら、Windows 11のエディションを問わず利用できる。古いPCにインストールされているWindows 11のエディションがHomeでも問題ない。複雑な制御をしないなら設定も非常に簡単で、初心者でもすぐに使い出せるだろう。

 ファイルサーバーとして設定する前に確認しておきたいのが、共有したいファイルを保存できるだけの容量が余っているかどうかだ。写真だけなら500GB前後でもかなり余裕はあるが、動画やよく使うアプリも共有したいなら、1TB程度の余裕が欲しい。もちろん共有したいファイルの総容量がそれ以上なら、その分の空き容量が必要だ。

 とはいえ、ストレージの空き容量が足りなくても対処方法はある。ほとんどのデスクトップPCやミニPCでは、本体内部にHDDやSSDといったストレージを追加するためのスペースがある。ここにHDDやSSDを追加して、ストレージ容量を拡張できる。拡張性が低いノートPCで内蔵ストレージを増やすのは難しいが、ケーブル接続が煩雑になることを覚悟すれば、外付けHDDやSSD内に共有フォルダーを作ることで問題を解決できる。

大容量のM.2 SSDや3.5インチHDDなどを追加して、共有フォルダーとして利用する容量を増やせる
小型のミニPCでも、追加でM.2 SSDを組み込むための空きM.2スロットを装備しているモデルは多い

 実はこうしたファイル共有を簡単に行なうための機器として、「NAS(Network Attached Storage)」というものもある。共有フォルダーとして利用できる3.5インチHDDをあらかじめ内蔵するタイプと、自分でHDDやSSDを組み込んで好きな容量の共有フォルダーを作成できるベアボーンタイプ(「NASキット」とも呼ばれる)の2通りが存在する。

3.5インチHDDを組み込めるベイを2基搭載するQNAP SystemsのNASキット「TS-216G」。実売価格は3万9,000円前後

 前者は、個人向けで容量が2TBのモデルだと3~4万円前後、4TB前後だと5万円前後といったところ。後者は機能によってピンキリではあるが、ストレージを組み込むベイを4基搭載するモデルで5~8万円前後。比較的導入コストは高めなので、初心者なら今回のように余ったPCに共有フォルダーを作るほうがオススメだ。

 ただしほとんどのNASには高度な専用OSが組み込まれており、ファイル共有以外にも自動で各PCをバックアップする機能や、各種WebサービスをNAS単体で利用できることが多い。興味があるなら調べてみてもよいだろう。

ストレージと共有フォルダーで使うアカウントの準備

 ここからはファイルサーバー上に共有フォルダーを作り、ほかのPCからLAN経由でアクセスできるようになるまでの手順を簡単に解説していこう。新しくストレージを接続した場合は、「ディスクの管理」ツールを起動して初期化やフォーマットを行なう。メーカーから購入した外付けHDDやSSDの場合はすでにフォーマットされていることが多いので、この手順は必要ないことも多い。

 もう1つ事前準備として、ファイルサーバーにローカルアカウントを作成し、登録しておく。これは、ほかのPCからファイルサーバーにアクセスする時に使う。

 ほとんどのユーザーは、PCへのログイン用アカウントとしてMicrosoftアカウントを利用しているはずだ。しかしMicrosoftアカウントでパスワードを使わないログイン方法を利用している場合、現状では今回のファイルサーバーなど別のPCへのアクセス用アカウントとしては使えなくなっている。そのためファイルサーバーにアクセスするためのローカルアカウントを最初に用意しておくほうが、ログイン時の混乱を防げる。

【ストレージの初期化とフォーマット】
スタートボタンの右クリックメニューから[ディスクの管理]をクリック
すると新しいストレージを初期化するダイアログが表示される。[GPT]にチェックが入った状態で[OK]をクリック
[未割り当て]と表示されている新しいストレージの上で右クリックメニューを表示し、[新しいシンプルボリューム]をクリック
シンプルボリューム作成のウィザードが始まる。シンプルボリュームのサイズが最大容量になっていることを確認して[次へ]をクリック
ドライブ名の指定画面だ。適切なドライブ名を割り当てて[次へ]をクリック
ストレージのフォーマット画面だ。初期設定から特に変更する必要はないので[次へ」をクリック
すると最終確認の画面が表示される。[完了]をクリックするとストレージがフォーマットされる
フォーマットが終了すると追加したストレージが認識され、指定したドライブ名に登録される
【ローカルアカウントの登録】
設定アプリの[アカウント]をスクロールして[ほかのユーザー]をクリックする
[アカウントの追加]をクリックする
アカウントを追加するためのウィザードが始まる。ここでは[このユーザーのサインイン情報がありません]をクリックする
アカウントの作成画面では[Microsoftアカウントを持たないユーザーを追加する]をクリックする
この画面でユーザー名とパスワードを入力し、画面をスクロールする
するとパスワードを忘れたときの救済措置として表示される質問とその答えを入力するダイアログになるので、すべて入力して[次へ]をクリックする
設定アプリの[アカウント]に戻り、ローカルアカウントが登録されいることが分かる

共有フォルダーを作成してほかのPCからアクセスする

 さらにファイルサーバー側に、共有するフォルダーを作って必要な設定を行なう。追加したドライブ全体を丸ごと共有フォルダーとして設定することも可能だ。こうして作成した共有フォルダーをほかのPCのドライブとして登録し、エクスプローラーから簡単に呼び出せるようにする「ネットワークドライブの割り当て機能」も便利だ。

 また今回は、一つの共有フォルダーを全員で同じローカルアカウントを使って共有する方法を紹介している。ユーザーごとに利用する共有フォルダーを設定したいなら、ファイルサーバーにローカルアカウントをユーザーごとに作成し、共有フォルダーの設定でEveryone(すべてのユーザー)ではなくユーザーごとにアクセス権限の設定を行なおう。

【共有フォルダーの設定】
先ほどWindows 11に追加したドライブ上に、自分の好きな名前のフォルダーを作り、右クリックメニューから[プロパティ]をクリックする
プロパティの[共有]タブをクリックし、さらに[共有されていません]の下にある[共有]ボタンをクリックする
このフォルダーを共有できるユーザーのリストとその制御を行なうダイアログが表示される。中央のプルダウンメニューから[Everyone]を選択して[追加]ボタンをクリックする
Everyoneのアクセス許可のレベルを[読み取り/書き込み]にして[共有]ボタンをクリックすると、共有フォルダーとして利用できるようになる
【ほかのPCから共有フォルダーにアクセスする】
エクスプローラーで初めて[ネットワーク]をクリックすると、こうしたダイアログが表示される。基本的にはプライベートネットワークを選択しよう
しばらくすると現在ネットワークに接続されているPCやネットワーク機器が表示される。今回のファイルサーバーは「F3A」なので、これをダブルクリックする
するとアクセス制御のダイアログが表示される。ファイルサーバー上で作成したアカウント名とパスワードを入力し、継続的にログインするので[資格情報を記憶する]にチェックを入れて[OK]ボタンをクリックする
するとこのように、先ほど作成した[共有フォルダー]が表示されているはずだ
【共有フォルダーをドライブに割り当てる】
先ほどの画面で共有フォルダーの右クリックメニューから[ネットワークドライブの割り当て]をクリックする
割り当てるドライブ名を指定するダイアログが表示される。使いやすいドライブ名をプルダウンメニューから指定して[完了]をクリックする
改めてエクスプローラーから[PC]を開くと、[ネットワークの場所]欄に指定したドライブ名で共有フォルダーが割り当てられていることが分かる
こうした設定をしておくと、各アプリからファイルを保存するときのダイアログに保存先のドライブ名として表示される。いちいちネットワークから共有フォルダーをたどる必要がない

2.5Gの有線LANは速いがゲーム用のドライブでも使える?

 最後に、共有フォルダーのリード/ライト性能を簡単に検証してみよう。ファイルサーバーのシステムストレージ用SSDに共有フォルダーを作り、2.5Gigabit Ethernet(2.5GBASE-T、以下2.5GbE)の有線LAN経由で接続している自作PCにネットワークドライブとして登録する。このネットワークドライブに対してCrystalDiskMark 8.1.0を実行し、シーケンシャルリード/ライトのテストを行なった。

 ファイルサーバーとして設定したACEMAGICの「F3A」では、2.5Gigabit Ethernetの有線LANポートを備えるので、この2.5Gigabit Ethernet接続とハブを切り換えたGigabit Ethernet(1000BASE-T、以下GbE)接続、Wi-Fi 6の無線LANの3通りでネットワーク接続を切り換え、シーケンシャルリードとライト性能がどう変わるのかを見たのが下のグラフだ。グラフ中の数値の単位はMB/s。

【グラフ1】シーケンシャルリードとライト性能

 シーケンシャルリードが少々伸び悩んでいるのが気になるが、シーケンシャルライトについては2.5GbEの理論値に近い転送速度を発揮している。F3A本体のシーケンシャルリードは約4.8GB/s、シーケンシャルライトは4.5GB/sなのでさすがにファイルサーバー本体での読み書き速度には及ばないが、それでも一昔前の高速な3.5インチHDDなみの速度だ。ランダム性能はHDDより段違いに速いので、なかなか快適だ。

 こうした数字だけでは分かりにくいかもしれないので、PCゲームのローディング時間がどうなるかについても簡単に検証してみた。「ファイナルファンタジーXIV:黄金のレガシー ベンチマーク」では、データのローディングタイムを計測し、レポートとして出力する機能がある。これを使って、「ファイルサーバーのストレージにゲームをインストールするとローディング時間はどうなるのか」を見てみよう。

 テスト内容は以下の通りだ。共有フォルダーを自作PCのネットワークドライブに設定した上で、ファイナルファンタジーXIV:黄金のレガシー ベンチマークのデータをその共有フォルダーに置く。自作PCから共有フォルダーに保存したベンチマークテストを実行し、そのローディングタイムを比較した。検証環境は先ほどと同じく2.5GbE、GbE、Wi-Fi 6、さらに共有フォルダではなく、自作PCのローカルSSD上にもベンチマークテストのファイルを置いた時の結果も比較対象とした。単位は秒。

【グラフ2】ファイナルファンタジーXIV:黄金のレガシー ベンチマークのローディング時間

 細かいデータの読み書きが頻繁に発生するPCゲームでは、2.5GbEとGbEでも、さきほどのシーケンシャルリードやライト性能比較ほどの差はつかない。とはいえ効果は確かに存在することが分かる。もちろん自作PCが搭載するSSD上でテストした時には敵わなかったが、それでも有線LANであれば、ファイルサーバーをゲーム本体の保存先にしてもなんとか行けそうだ。

 こうした結果を踏まえれると、たとえばゲームや頻繁に読み書きするファイル用に容量は少なめだが高速なSSD、頻繁には読み書きしないファイル用に大容量の3.5インチHDDを積むなど、複数の異なったストレージを組み合わせた「ハイブリッド構成のファイルサーバー」を作るのも面白いだろう。

 なお、ファイルサーバーとして常時稼働させるPCであっても、Windows Updateは定期的に確認し、最新の状態を保っておくことが重要だ。セキュリティ面のトラブルを防ぐためにも、ネットワークに接続されるPCとして、基本的なメンテナンスは怠らないようにしよう。

まとめ:家庭内ネットワークの一歩目を踏み出そう

 以上のように、Windows PCを活用したファイルサーバーの構築は、特別な知識がなくても始められ、余っているPCの有効活用にもつながる。ネットワーク経由でのファイル共有ができるようになれば、家庭内のPCの連携がスムーズになり、日々のデジタル生活の効率もぐっと向上するだろう。

 今回は基本的なファイル共有を中心に紹介したが、さらに進んでバックアップの自動化やメディアサーバー機能の追加など、使い方は広がっていく。まずは余ったPCを生かして、身近なところから「家庭内ネットワークの一歩目」を踏み出してみてほしい。