イベントレポート
ウイルスバスターのトレンドマイクロが見つけた新しい道。それはAIデータセンター向けのセキュリティ
2025年5月27日 13:29
トレンドマイクロは、日本に本社があるソフトウェアベンダーだが、そのルーツは台湾にあるというユニークな企業だ。PC Watchの読者にとっては、PCやスマートフォン向けのセキュリティツール「ウイルスバスター」ブランドの製品がよく知られているだろう。そんなトレンドマイクロは一般消費者向け製品の拡大を続けているが、それと平行して展開しているエンタープライズ事業は、拡大を目指しているどころか、すでに同社の主力事業になっている。
5月20日より台湾・台北市で開催されたCOMPUTEX 2025の展示会場に、トレンドマイクロは初めてブースを出展しており、同社のAIデータセンター向けソリューションを展示した。
社会情勢の変化にあわせ「詐欺バスター」も展開するトレンドマイクロ
トレンドマイクロは、現トレンドマイクロ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO エバ・チェン氏ら、台湾のエンジニアにより米国で創業され、その後日本に本社機能などを移し、現在は東京証券取引所に上場している公開企業となっている。本社機能がある日本だけでなく、米国、台湾など世界各地に拠点を構えているほか、開発の拠点は台湾に置いており、グローバルなソフトウェア企業として活動している。
トレンドマイクロ株式会社 取締役副社長 大三川彰彦氏が、「弊社のチェンCEOは常々、東アジアを拠点としてソフトウェアビジネスをグローバルに大規模展開しているのはトレンドマイクロだけだと言っている」と語る通り、日本や台湾を拠点としている企業は、どちらかと言うと製造業が中心のグローバル企業が多い中で、ソフトウェアビジネスをグローバルに展開している企業はめずらしい。
そうしたトレンドマイクロは、日本では説明する必要もないほどの知名度を持つ「ウイルスバスター」ブランドのセキュリティツールでよく知られているだろう。かつて、PCのようなプログラマブルなクライアントデバイスのセキュリティ強化ツールだったウイルスバスターは、近年ではスマートフォン向けにも用途が拡大している。
大三川氏によれば、いわゆるウイルス対策のようなセキュリティツールだけでなく、現在はフィッシングのような詐欺対策に注目が集まってきているという。トレンドマイクロでも新しいセキュリティツールとして、「詐欺バスター」をスマートフォン(iOS/Android)向けに2025年2月に提供開始している。
そうした製品を出す背景として「個人ユーザー様をターゲットにしたオンライン詐欺の被害額が年々増えている。日本はそうした詐欺のターゲットにされており、弊社が37年間培ってきた脅威情報や脆弱性情報をもとに、そうした詐欺を防ぐツールとして提供を開始した」と大三川氏は語る。実際、高齢者を対象にした特殊詐欺、現役世代を対象にした投資詐欺、そして若者を対象にした闇バイトなどのオンライン詐欺が社会問題になっている現状がある。
ITのリテラシーが高いユーザーであれば、そうした詐欺の電話やメールなどが送られてきてもおかしいと判断できるかもしれないが、そうではない一般のユーザーもスマートフォンを利用することが当たり前になっている現状からすると、そうした詐欺に引っかからないようにするツールの存在が重要になっている。
大三川氏によれば詐欺バスターは詐欺電話対策、Web脅威対策、SMSフィルタ、詐欺チェック機能、ディープフェイクスキャン(ベータ提供)などのツールが用意されており、そうした詐欺への勧誘を未然に防ぐための機能が搭載されているという。
大三川氏は「将来的にはこうしたツールにプロアクティブ(能動的)な機能を追加すべく開発を続けている。事前にそうしたことを防げるような機能を開発していきたい」と述べ、ユーザーのスマートフォンが詐欺に対して脆弱な設定になっていることを通知するといった、能動的にユーザーを守る機能も将来的に追加していく意向を示した。
エンタープライズビジネスが拡大しているトレンドマイクロ、AIスパコンのセキュリティを強化
そうしたトレンドマイクロだが、大三川氏によれば「7対3で、エンタープライズの割合が増えている」という。実は現在の主力の事業はエンタープライズ向けになっているのだそうだ。
台湾・台北市で開催されたCOMPUTEX 2025では初めてブースを出展し、同社のデータセンター向けのソリューションを展示した。台湾がルーツのトレンドマイクロがCOMPUTEXの展示会場にブースを出すのが初めてというのは意外だが、これまでもブース近くのホテルなどで顧客だけを対象にしたスイートなどを出したことはあったという。
出展の背景には、今回のCOMPUTEX 2025が「AI Next」を主題に据えて、ハードウェアの展示会からAIの展示会へと脱皮を図っていることがある。従来のCOMPUTEXと言えば、PCのハードウェアが主役だったが、今回の展示会場での主役はAI向けのハードウェア、具体的にはデータセンター向けのAIハードウェアだ。より詳細に言えば、NVIDIAのBlackwell(B300、B200)やHopper(H200、H100)などを中心とした、GPUベースのAIスーパーコンピュータが主役となっていた。
そうしたトレンドの中で同社が展示したのは、AIスーパーコンピュータ向けのセキュリティソリューションだ。現在のAIスーパーコンピュータは複数のレイヤーに分かれており、それぞれのレイヤーにセキュリティツールを提供するというのがトレンドマイクロの戦略となっている。
たとえば「TrendVision One」という製品は、Dell TechnologiesのAIスーパーコンピュータに組み込まれて、データが想定外なところに出て行ったりしないようにAIのセキュリティ管理などがより容易に行なえるようになる。
トレンドマイクロはこうしたデータセンター向けのセキュリティツールを開発し、OEMメーカーの製品にバンドルして出荷したり、ソフトウェア自体をエンタープライズに対して販売したりするかたちで事業の拡大を狙っていくと説明した。